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『トロッコ』
小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行った。工事を---といったところが、唯トロッコで土を運搬する---それが面白さに見に行ったのである。
 
大学入試か、受験で読んだ問題集に出てきました。
試験は苦痛でしたが、何だか魅力的な物語に心を奪われ、大学がどうでも良くなったほど(笑)。
国語の試験問題って魅力が一杯。
  
良平は二つ下の弟や、弟と同じ年の隣の子供と、トロッコの置いてある村外れへ行った。トロッコは泥まみれになったまま、薄明るい中に並んでいる。が、その外は何処を見ても、土工たちの姿は見えなかった。三人の子供は恐る恐る、一番端にあるトロッコを押した。トロッコは三人の力が揃うと、突然ごろりと車輪をまわした。

 
「さあ、乗ろう!」
 彼らは一度に手をはなすと、トロッコの上に飛び乗った。トロッコは最初徐に、それから見る見る勢よく、一息に線路を下り出した。その途端につき当りの風景は、忽ち両側へ分かれるように、ずんずん目の前へ展開して来る。顔に当る、薄暮の風、足の下に躍るトロッコの動揺、---良平は殆ど有頂天になった。
 
しかしこの時は叱られてしまいます。 
「この野郎! 誰に断ってトロに触った?」
 其処には古い印袢天に、季節外れの麦藁帽をかぶった、背の高い土工が佇んでいる。---そう云う姿が目にはいった時、良平は年下の二人と一しょに、もう五六間逃げ出していた。
 

 その後十日余りたってから、良平は又たった一人、午過ぎの工事場に佇みながら、トロッコの来るのを眺めていた。すると土を積んだトロッコの外に、枕木を積んだトロッコが一輛、これは本線になる筈の、太い線路を登って来た。このトロッコを押しているのは、二人とも若い男だった。良平は彼等を見た時から、何だか親しみ易いような気がした。「この人たちならば叱られない」---彼はそう思いながら、トロッコの側へ駈けて行った。
「おじさん。押してやろうか?」
 
トロッコを押す手伝いをさせてもらって喜ぶ良平だが、どこまでもどこまでも先を進んでいくことに、だんだん不安を感じ始める。
大人達には、帰りが遅くなることへの子供に対する気遣いがあるはずだと信じていたのだが。かなり遠くまでやってきてから、
 
「われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから」
 
と、一言。
辺りは既に暗くなってきている。自分の村まで、数時間はかかろうという距離だった。
泣きながら夜道を走る良平。
この辺の描写がとても読ませます。


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